アクチュアリーはアメリカでは就職ランキングサイトで常に上位(トップになったこともある)に入る人気のある職種ですが、 日本では保険業界関係者以外にはほとんど知られていません。 ただ、海外でもアクチュアリーはなるのが難しいとか待遇がいいとか思われている以上に一般の人からは変わった人が多いと思われているようです。

一般にどのようなイメージがあるかいくつか紹介すると、

1:アクチュアリーとは、時間を尋ねると時計の作り方を教えてくれる人たちである。

2:アクチュアリーは自分たち以外では神としか話をしない。

3:アクチュアリーの妻は不眠症になったら「ねえ、あなたのお仕事について教えて」という。

4:わけのわからないことをいう人に「お前はアクチュアリーか」。

 これらは海外での話で日本ではまだジョークになるほどアクチュアリーは認知度がありません。 また外部の評価はともかく、アクチュアリー達自身の評価としては割に合わない職業だと思っている人は意外に多いのです。

これも海外ネタですがこんなジョークがあります。 保険料が安い新商品を販売した結果、業績が悪化した会社の社長がアクチュアリーを呼んで言いました。

社長:
「君はクビだ」

アクチュアリー:
「なぜですか?」

社長:
「君の算出した保険料で大幅な赤字に転落したからだ」

アクチュアリー:
「だからあのとき私は反対しました。あの保険料では収支が合わないといったではないですか。それを強行したのはあなたですよ」

社長:
「君はもっとはげしく抵抗し、テーブルをたたき、灰皿を投げつけてでも我々を止めるべきだったのだ」

でも、もしこのアクチュアリーがあのとき灰皿を投げつけていたら、彼はその場でクビになっていただろう。 これはジョークであるが、実際に同じようなことは事実として起きている。 友人のアメリカ人のアクチュアリーの話であるが、 彼は若い頃アスベストによる健康被害(石綿が肺に入り込んで肺炎や癌を引き起こすこと)を担保する賠償責任保険の損害額を予想し、 積み立てるべき準備金を計算したが、上司が高すぎると文句をつけ、結局彼は閑職に飛ばされてしまった。 しかし20年以上経過してもなお問題は後を引き彼の計算値よりもはるかに高い損害額となったのである。

 比較的アクチュアリーの発言力が大きいアメリカでもこれであるから、日本のアクチュアリーなど悲惨なものである。 ましてや保険業法に基づく責任を負う保険計理人ともなると、 権限がないのに責任だけ負わされて、会社が破綻した場合はアクチュアリー会正会員の身分を剥奪されたりすることもある。 保険計理人は法律上独立した立場であるとはいえ、監査役や外部監査人と異なり従業員の中から保険計理人を選任する会社が多い。 そしてその場合、従業員である保険計理人は上司や経営陣の意思に反した意見書など書けるわけがない。 こうして不本意な意見書を書かされた場合でも、結果として会社に損害が発生すれば保険計理人は刑事罰を課せられるのである。

 法律上の保護もなく罰則だけあるのは不公平という話は昔からあるが、いまだに改善されてはいない。 なぜなら日本アクチュアリー会のメンバーの大多数は生保であり、生保では保険計理人制度にの歴史があるため発言力が大きく、 また経営陣に保険計理人もしくはアクチュアリーがいて保険数理を担当しているので、保険数理は事実上経営に反映されており、 不都合はないとされているからである。 近年ではアクチュアリーが社長になっている会社もあるので、この説明はある程度説得力を帯びてきている。

 100年以上の歴史を持つ生保アクチュアリーに比べて損保に保険計理人が導入されたのは平成8年の保険業法改正からである。 しかもそれは積立保険や長期第三分野を扱う保険会社に限られており、アクチュアリーでなくても決算等を5年以上経験していれば 保険計理人になることができた。 従ってこの頃は経理部長などが保険計理人になることが多く、このため保険数理を全く知らない保険計理人もかなりいた。

 全社に保険計理人制度が導入されたのは平成18年の保険業法改正からで、この時から保険計理人となるためには 日本アクチュアリー会の正会員であることが要件となった。 損保の保険計理人実務基準も定められ、現在ではこれに従って責任準備金、支払備金、収支分析による会社の存続確認等を行うようになっている。

 しかし、歴史の長い生保と違い、損保の場合は法律で要求されているからしかなたしに保険計理人を選任しているというスタンスの会社がまだ多い。 中小会社では法律で定められた責任準備金等の確認業務はあるが、それ以上のリスク管理や収益管理にまでは関与していない場合が多い。 というより、そもそもアクチュアリーの数も少なくて関与できるような組織体制にはなっていないし、 その必要性も感じていないというのが実態である。 そのような会社ではアクチュアリーの仕事はほとんど商品数理や支払備金、責任準備金の確認等に限られてしまう。

 しかし最近は損保でも大手では精緻なERMを導入し、経営陣にアクチュアリーが入っているケースも増えてきた。 ERMはまさに経営そのものだからである。 ERMのためにそれまで経理や商品部門に在籍することが多かったアクチュアリーをリスク管理部門に集めているケースも多い。 精緻なリスク管理を行うため、保険会社以外でもアクチュアリーを採用する会社も出てきている。 もし、将来収支の分析の結果に基づくアクチュアリーの判断が経営に反映されるなら、 そもそも破綻に陥ることはないはずである。(経営失敗による破綻の前の吸収合併などはありうるが)

 リスク管理の進んでいる欧米ではアクチュアリーは監査や決算確認という消極的な役割だけではなく、 事業計画や収益予測という積極的な役割も担っている。
リスク管理と収益計画はアプローチが異なるだけで、本質的には同じものだからである。 リスクと収益のバランスをリスク側から見たものがリスク管理で、収益側から見たものが収益管理なのである。
高度なERMによる経営を行っている外国の保険会社ではアクチュアリーはCEO(最高経営責任者)、 CFO(最高財務責任者)、CRO(最高リスク責任者)あるいはチーフアクチュアリー(最高数理責任者)として 経営の重要な決定に関わっている。 長期にわたる経営計画には将来収支におけるリスクを正確に反映させる必要があり、 さまざまな分析やシミュレーションの結果の評価を経営判断に反映することが必要不可欠だからである。